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#155. A project with Areena Ang


少し前になりますが、ロンドン在住のオイルペインターAreena Angと取り組んだ1着のトレンチコートをCasimir Pulaskiday.で発表しました。
Areenaとのこの小さなプロジェクトは自分とって大きな意味を持ちました。快く引き受けてくれた彼女に大変感謝しています。

Areenaとは、昨年の9月にEllen Poppy HillのEllenちゃんのスタジオを初めて訪れた時に出会いました。EllenとAreenaはお友達で2人でスタジオをシェアしています。ってあそうか、Ellenちゃんについて書いてなかった。
Ellenちゃんは、同年2023年にCSMのMAを卒業、在学中からロンドンの新進系デザイナーのアシスタントを複数経験した後、現在はインディペンデントでハウスを立ち上げアップサイクルとハンドドローイングによるユニークピース製作を行っている。
Ellenちゃんについてはまた今度にします。この9月には初めての単独ランウェイショーを行うらしい。

Areenaの話に戻って、なぜこのプロジェクトに至ったかというと、出会ったからです。
過程には色々ありましたがその辺を書くのはどうだろうか、後に意味があれば書こう。

すべてのものに価値がある。価値がない、ということは無いという価値があるという意味で。そしてここでの価値とは相対的なものです。

このコートにはどんな価値があるのか、ということをずーーーっとなんだか考えていた。
まずこのトレンチコート自体は古着です。ここに価値があるとしたら、シルエットがよくコットン100%だということ。
ブランドものは避けた、価値がぶれるから。
次に我が店が鉄壁の無名だということ。
一方のAreena Angは、作品は市場でも正しく値がつき、ソロエキシビジョンを行うなど注目度はあるもののまだ若くこれからのアーティストだ。個人的には価値を感じてお願いしたのですが。
更に、今回のペインティングはもちろんハンドペイントですが、彼女の専門であるオイルではなくアクリルです。
服に描く上でどうしてもオイルはよろしくないので無理を言ってアクリルを使ってもらった。服に描くこともアクリルで描くことも初めてのAreenaのこのワークは慎重を極めましたが、なんとか完成に至り、この7月にようやく日本へ発送された。
ここまでで実際に会えたのは2回、基本的にはバーチャルでのやり取りでしたが、Areenaの詳細な説明とビデオ画像で大まかなイメージは捉えていのもの、実物を見た時の高揚はすごかった。それはしっかりと、完全に絵画でした。

到着の前まで私はこのコートに次なる価値を乗せたいと思っていた。その為のリメイクやディティールの追加を考えていた。
でも実際に彼女の絵だけがある状態のこの服を見て、ああこれは何もしてはいけないと理解した。
位置、サイズ、バランス、正直私の希望はひとつも叶わなかったのだが、それによってこの服はファッションという枠をとっぱらったのだと思います。

ファッションデザイナーとアーティストは重なる部分はもちろんあるけど創造性が異なると思う。
Areenaは完全なる後者で、自分がファッションの視点で提案したことが通用しなかった。ちょっとした絶望さえ感じた訳でしたがそれは幸いに無益でした。

さて、この服に自分はあと何をするべきか、それともしないべきか。
出した結論は、しない、という事をしようというものでした。
私はこの服をファッションアイテムとしてではなく、アートとしてここに置こうと思いました。
若手画家の絵が描かれた服という物質的なアート性に限らず、価値の体系化、というコンセプチャルアートと成り得るのは、この取り組みに持ち込んだ視点とAreenaの逞しい誇りだと思う。
ギャラリーに置かれるアート作品に付けられるキャプションを、ギャラリーの人間としてこの服に付けることにした。

自分にできることはこれだけです。
そして作品のオリジンと共に置く。
はてこの服の価値とは。