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#96. LUNA DEL PINAL

 

中目黒は当然のように桜が咲いて、当然のように人が溢れる。
どっちも止められない。
下は賑やかですが5階はいつも通り。こんな場所でやっているデメリットはありがたいことにひとつもない。悲しいと言うべきか。
そんなことはどうてもいい。
LUNA DEL PINALがやってきたんだから。
言いたいことも言うべきこともたくさんあるのだけど、そんなことしてたらいつまで経ってもこの一話が完結しない。
でも書きたい。これが自分の責任だから。

20AWはスキップしてこの21SSに全力を投入したGabrielaとCorina
コロナもあったりいろいろあって、現在はGabrielaはロンドン、Corinaはグアテマラ、別々の場所にいる。
別々の場所で2人によって生み出されたデザインは、全てCorinaのいるグアテマラで形になる。
この21SSで、彼女たちはLUNA DEL PINALの“NEWNESS”のかたちに真剣に向き合いました。
ブランドを始めた初期のディレクションから徐々に変化を続けながら、今回このシーズンは彼女たちの中で重要な転換点となったようです。
前を見ている。これまでの歩みを振り返る隙は捨ててでも。
私はそれを、当然ながら尊敬し、尊重します。
2人のストイックで真摯的な考え方、行動に、私はいつだってYESと言いたいし理解できる自分、店でありたい。
そんな熱い気持ちを持っています。だから、ちゃんと伝えたいのだけれど、やっぱりモノが語る言葉には敵わなくて。
だから見て欲しい、いつも同じです。
服の表情、触れた肌触り、匂い。

これまでもそうしてきたように、GabrielaとCorinaはまず、服を形成する生地を生み出します。
この21SSプロジェクトをスタートする前、2020年の初旬、世界がロックダウンを迎える直前に2人はインドへと旅に出ました。
完全なるカントリーサイド、逃亡者のように何もない地で過ごした時間をこのコレクションへ投影した。
インドでの経験をグアテマラのクラフトマンコミュニティへと持ち帰り、昨年のクライシスの中で新たに興した支援プロジェクトを通し、ブランドの「今ある発想」をもってこのコレクションが成り立っていることをまず、知ってください。

これまでの形式、手法、発色から明らかに変わった。
もちろんクラフトも色もしっかりとあるのだけれど、それは決して強調や装飾的なものではなく、自然が生み出す個性のみに集中している。
自然界でのあるべき人間の状態、太陽の下、田舎の風景の中でのワードローブといおうか。

今回彼女たちは、天然のラバーツリーからできたゴム糸を使って生地を誂えた。

これが本当にすごい。まず真っ先に突出するのが匂いだ。紛れもないゴムの匂い。これが天然の力だと言うかのように。
予測不能に乱れる糸の動き、大地のようにダイナミックな生地の凹凸。スパンデックスとは次元が違う。
ミックスされたコットン糸もすべてがアップサイクルです。破棄されたデニムを分解しファイバーへ戻した後、再度糸を紡ぎデニムを再生するTHE NEW DENIM PROJECTともコラボレートし、再生可能な素材を用いた生地開発に力を入れた。
一本一本に過程がある、その糸で織られた生地、その生地で作られた服が発する力強さと優しさはこの写真で伝わるだろうか。

 これまでだって、彼女たちはサステイナブルを貫いてきた、こうした観点をもってクリエーションを続けてきました。
職人の手を守るため、家族を守るためのプロジェクトとして、深い関係性の中で伝統技術をリスペクトし、新しい発想、時代への提案がLUNA DEL PINALの変わらないスタイルです。
こないだ3人でおしゃべりした時言っていた、「私たち“サステイナブル”という表現をやめたの」と。
この言葉がファッションとなった今、自分たちがやってきたそれとは別物になった、だからやめたって。たぶん服を作り始めるもっと前から、2人を見ればすぐにわかる。

実は今回、LUNA DEL PINALの過去の作品を少しだけ入れさせてもらいました。
2人の意思は固い。だから私からもここで何かを伝えることはしないけれども。
それでもどうしたって素晴らしいのです。(本当は最高だーーーと叫んでダッシュしたい)
2人には伝えた、自分の思いは。だから私は密かに待ちます。

LUNA DEL PINALのみならず、持続可能な創造、自然の中に自分たちがあること知るクリエイターは多くいて、ファッションの世界にも一ジャンルとして根付いている。程度は別として。
でもビジネスツールとしてのそれがほとんどでそれをやることで結果汚染しているという現実では本末転倒だし、提供されたものに頼って生きる自分も当然それに加担している。悲しいけれど。
いろんな価値観があって、時代や変化とともに視点がかわる。日々単位でも変わる。自分の上でも日常的に起こっていること。
自分はむしろ、地球を破壊する方の人間かも知れない。でも(グイッと戻るけど)LUNA DEL PINALの姿勢に触れることでそれに気づかされて、更にその服を着ることでもしかしたらそんな自分を少しだけ変えることができるかも知れない。それで良いじゃないか。私はたぶんきっかけが欲しい。
それくらいの説得力のある服だと思います。

この服たちを受け取ったとき、自分はこれをちゃんと伝えないと、と深く思った。だからできる限りの自分の言葉で書いている。
伝えることは本当に難しい。毎日感じる。自分には向いていないと思う。だからこんなに小さい場所にいるんだな。こんなに小さくても全てを伝えるのは不可能だ。
それでも伝えないと終わってしまうので、誰かに少し伝わればいいです。

“ファブリックは、物語、生きた歴史を伝え、何が起こっているのか、そして私たちがどこに向かっているのかを教えてくれます。テキスタイルは文化を作ります。”
− Arianne Engelberg(THE NEW DENIM PROJECTクリエイティブディレクター)の言葉−