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#148. wan shan ling


Wan shan lingの新しい服について。
今回はバギーパンツ。異なる素材、色とディティールで計3本。
アイルランド出身の建築家兼プロダクトデザイナーEileen Grayをトピックとしたカオティックバギーからwan shan lingの鍵を見つけた、という話です。

アイルランドからイギリス、パリへと拠点を移したEileen Grayは、パートナーから建築を学び、男性優位の建築の分野において戦前に活躍した類稀な女性建築家で、現代にも残る名作を数多く生み出しました。

建築とプロダクトに境を作らず、建築の一部、同等の価値として捉えたEileenのプロダクトは前衛的でモダンであり機能美に富み、彼女のテキスタイルや家具には、建築的”ライン”や軌道、構造を感じさせるものが多くあります。
逆に、家具に見られるデザイン手法を建築設計に採用している例も多い。

Eileen Grayにする、と最初にwanさんからプロジェクトテーマを聞いたとき、あこれは相当良さそうだと心が高鳴った。
個人的にwan shan lingと建築家との相性が良いように感じていて、更にBettina Speckner以来の女性のデザイナーと言うことも拍車をかけてきた。
Eileen Grayの洗練されたオブジェが多層的なwan shan lingの服にどのように取り込まれるのか。
で、やってきたのが意外にも極太バギーパンツでした。

Eileen Grayの家具たちは、他色ステッチ、バックポケットの過剰装飾といったバギーパンツのセオリーを踏んで、丁寧な手仕事で軌道を描きながら配置されております。

ROCAWEARやSOUTHPOLEなどの90~00年代極太バギーに系譜し、サブ視点として1900年代初頭のオランダ北部の伝統衣装であるワークパンツがねじ込まれている、とwanさんは言う。他にも細々とあるらしいが。

今回、wan shan lingがやろうとしていることが少し分かったような気がする。
ずっと違和感があったのですが。wan shan lingの服はものすごく手をかけて高度なことをやっているのですが、感覚的な堅牢さがあまりしない。
いろんなところから少しずつ引っ張ってくるのがwanさんで、そこには一貫性とハーモニーがない、故に説得力というものを(敢えて?)下げているからじゃないだろうか、というのが自分の仮説だ。
例えば今回は、Eileen Gray、バギー/HIPHOP、ユーロヴィンテージと、脈絡のないエレメンツをひとつのアイテムにコラージュ的に重ねている。
で、それはたぶん建築マニアにもB系にも古着好きにも刺さらないのだ。何故ならそれぞれの深みがないから。
これは価値がないように聞こえますが、もちろんペラペラだったらどうしようもないゴミカスですがwanさんの服はそうではない。と思う。ギミックの構造と基盤の強さ。
あと試みとしても非常に価値があると思う。成立させるのはめちゃくちゃ難しいことだ。
店に立っていると面白いのが、全く触れずにスルーする人がいて、そういう人は服好きに見える人も少なくない。
なるほどと思う。

もしこれが正しいとしたら、wan shan lingがより興味深く、着ることに大きな意味を見出せるという気がします。
寛容性が試される。
ファッションをやる人は寛容であるべきだ、と以前wanさんが言っていた。
これがきっと鍵となるはず。